2009年07月09日

ロシアの同性愛者の未来

米国のオバマ大統領がイタリア・サミットを前に、ロシアを訪問した。

 オバマ大統領とメドベージェフ大統領の会談では、大規模な軍縮の合意、アフガニスタンにある米軍への物質供給のためにロシア空域利用を許可、イランと北朝鮮の核の脅威についての突っ込んだ協議などの成果があった。決して大きな成果とは言えないが、「仲直り」への第一歩とはなったに違いない。

 オバマ大統領はハードな日程の中でロシアの野党勢力にも会い、ロシアにおける人権の問題も話し合った。その中には、ロシアのあるグループの人たちが期待していたのにもかかわらず、話題にならなかった問題がある。

 その問題とは何か。言論の自由が縮小していることや、政党政治が行われていないことなどではない。同性愛者の権利の問題である。

 同性愛の権利を唱えるグループの人たちは、駐ロアメリカ大使館に集まり、同性愛者の人権擁護に消極的なオバマ大統領に向かって、「全米で同性愛者の結婚を認めよ」「Yes You Can!」などと訴えようと思っていた。だが、許可は下りなかった。

 同性愛者をどう扱うかは、これから民主主義を発展させようというロシアにとって頭を悩ませる問題である。民主主義の先進国も、一般的に同性愛者の結婚許可には消極的だ。米国にしても50州のうち6州しか同性愛者の結婚を法的に認めていない(そのうち3州は2010年1月までに認められる予定)。

 はたしてロシアが、結婚を認めるとまではいかなくても、同性愛者の社会的な権利を認められるのか。同性愛自体は「違法」でもなく「病気」でもないと認められるのか。これは、ロシアの民主主義発展にとって大きな試練であると言える。

 だが、同性愛を容認するかどうかは、単に政治的な判断で行うことはできない。ほかの国と同様、国の文化や宗教の問題と複雑に絡み合っているからだ。

 キリスト教の国であるロシアでは、同性愛は長らく「大罪」として扱われてきた。歴史をたどってみると、同性愛を排除してきたのは「文化・宗教的な」理由よりも、社会的な要素がもっと大きかった。

 18世紀以前、ロシアの法制(11世紀の「ロシアの司法」)には同性愛(基本的には男性の間の「男色」のこと)についての明確な記述はない。

 1706年、ピョートル1世が定めた軍法規で、ドイツに倣って、初めて同性愛者に対する処罰が明記される。処罰は、今の米国みたいに軍人だけが対処となっていた。

 その規定が刑法に組み込まれ、一般的になったのは1832年だった。同性愛者はシベリアへ最大5年間、追放されるという罰があった。1903年の法律改革の時には、この処罰を軽くする動きがあったが、革命運動の激化のために実行されなかった。

 自由と人権の尊重を宣言したロシア共和国(1917年成立)時代の初期、刑法から消えてしまったが、また浮上してきたのはスターリン独裁時代だった。1934年版の刑法では同性愛への処罰が厳しくなってきたばかりか、「ブルジョア階級の腐敗」と定義され、思想的な攻撃対象となった。

 同性愛を犯罪視していたソ連刑法121条は、91年にソ連が崩壊するまで残っていた。93年になって、やっと刑法から削除された。

 しかし問題は解決されたわけではない。法律的には差別がなくなったが、一般市民の間では根強く差別が残っている。一般市民からの軽蔑と中傷による事件、職場での差別が少なくない。警察官による差別も行われており、脅迫してお金を要求したり、情報提供をさせたりする警察官も少なくない。

 2006年5月、モスクワでゲイパレードが行われた際に、ロシア政府は内務省の軍隊と警察官を多数動員して強制的に解散させた。証言によれば、ある「極右市民団体」が政府当局のお金でモスクワに乗り込み、パレード参加者に暴力を振るったという。また、モスクワ市当局はゲイ活動家を検挙して拘束するなど厳しい取り締まりを行った。その対応は、全世界から批判を浴びた。
議論の話題には上がらないが

 だが、ロシアの人権擁護活動家は、同性愛者の擁護に消極的である。同性愛者は味方がいない状況の中で、自分たちの権利を守るために様々な運動を行っている。例えば、「www.lesbiru.com」「GayRussia.Ru」「Best For」など、Webサイトと専門雑誌、いわゆる「ゲイマスコミ」は数が多い。ネットにおいては政府当局から圧迫されることはない。

 ロシアの同性愛者は2008年5月に、ある「勝利」を収めていた。それまでは、厚生省によって同性愛者の献血は禁止されていた。しかし最近最高裁判所の判決によって、献血することが許されるようになった。

 次の段階として同性愛者が勝ち取ろうとするのは、同性結婚の権利だろう。だが、これは米国の状況を見ると決して簡単なことではない。米国では1996年に連邦政府が結婚防衛法(同性間の結婚を認めない法律)を採択した。その後、多くの州がそれに倣って同性間の結婚を禁じている。

 オバマ大統領は選挙の時に、結婚防衛法が「差別的」だとして、廃棄すると約束した。しかし、破棄しようという姿勢は見られない。オバマが本当に同性愛者の人権を擁護しようとしているのか不明である。

 1つはっきりしているのは、モスクワの米ロ・サミットで同性愛の問題は話題に上らなかったということだ。両国首脳にとっては、先に議論すべき問題が山ほどあるのだから仕方がない。

 しかし、民主主義の根幹が、誰もが平等で個人として尊重される世の中を作ることなら、法律至上主義者のメドベージェフ大統領はもう少し同性愛に気をかけてもいいかもしれない。

ラベル:ロシア
posted by はなゆー at 14:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 同性愛 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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