研究によれば、食餌制限と長寿に相関関係があるのは、「摂取カロリーが減る」というストレスに分子レベルの反応がおこり、これにより重要な細胞機能が維持され、身体が加齢に伴う病気に抗するのを助けるからだという。
人体の細胞を用いた実験によって、人間の細胞に必要な栄養分は確保した上で摂取カロリーを減らすと、細胞の動力源ともいえるミトコンドリア内部で連鎖反応が始まり、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)と呼ばれるコエンザイム(補酵素)が増強されるのが示されたという。
それがSIRT3、SIRT4という2つの遺伝子から生まれる酵素の活動を活発化させ、ミトコンドリアのエネルギー出力が上昇し、細胞の老化を妨げるという。
Sinclair教授は、「NADの増加によりいかなるメカニズムが作用するのかについてはまだ確認できていない」としつつも、「(加齢とともに作動するように)あらかじめ人体にプログラムされている細胞の死滅が、これにより大幅に阻害されるということは示された」とする。
また、「SIRT3、SIRT4と細胞の生存との関係が明らかとなったのは今回が初めてだ」と語る。
つまり、カロリー摂取量を減らすとミトコンドリアが強化され、加齢とともに生じる病気を避けることができることになる。
これまでもアルツハイマー、卒中、心臓病、糖尿病には、ミトコンドリアのDNAが損傷を受けて細胞が死滅することが関係すると見られており、健康維持にミトコンドリアが重要であることはわかっていたものの、今回の研究で細胞の燃料庫ともいえるミトコンドリアが細胞の生命に決定的であることが改めて証明された。
またSinclair教授は、「ミトコンドリアは細胞の守護神である。ミトコンドリア内部のNADを増やし続ければSIRT3とSIRT4を刺激し、長期間にわたり他には何も要らないことになる」と語る。
細胞核など、細胞内のその他のすべてのエネルギー源が消滅しても、ミトコンドリアさえきちんと機能していれば細胞は生き続けるのだという。